伊藤 正人
Masato Ito

01_Undercurrent, 2014, インク、雁皮紙、糸
02_fountain blue(pelikan), 2015-. インク壜, Photo by 丹羽康博
03_fountain blue(spin), 2015, インク、雁皮紙、パラフィン紙、原稿用紙、本, Photo by 丹羽康博
04_fountain blue(silk), 2016, インク、絹糸
05_fountain blue(painting #002), 2016, インク、胡粉
06_fountain blue(鳥), 2016, インク、流木
07_国土私理院地図, 2019-, インク、グラシン紙、国土地理院地図

プロフィール
1983年愛知県豊田市出生、名古屋市出身。
主な展覧会に、2017年 個展「小説の部屋 - アインソフの鳥」AIN SOPH DISPATCH(名古屋)、2014年「常設企画展 ポジション2014 伊藤正人 - 水性であること」名古屋市美術館、2012年「ファン・デ・ナゴヤ美術展2012 緘黙する景色」名古屋市民ギャラリー矢田など。美術作家として活動する傍らで小説や自主発行のフリーペーパーでエッセイ等を執筆。主な著作に、「アインソフの鳥」note house(2017)、「仲田の海」大愛知なるへそ新聞(2016)、「リュウズの言象」(2015-)など。

生まれてから二歳になるまで住んでいた平芝町の家がいまもまだ残っている。
少なくとも築四十年ほどになる平屋建ての古い官舎で、庭がずいぶん広かった。十数年まえにたずねたときには空き家になっていて、たまたま出会った向かいの家のおばさ
ん(おばさんは赤ん坊だったころのわたしをおぼえていた)といっしょにその庭へ忍び込んだ。濡れ縁にすわって庭を眺めると、おだやかな秋の光につつまれた芝生が黄金色に輝いていた。住み心地のよさそうなところだと思った。いや、実際に二歳までそこに住んでいたのではあるが。昨年末にたずねたときは雑草が伸び放題でずいぶん荒れていたが、台所と思しき磨りガラス越しの窓辺に物が置いてあって、だれかが住んでいるような生活の気配がうっすらと漂っていた。